「新しいことを学ぶと人に伝えたくなるねぇ」。有吉敏高さんは、郷土史会の会員であり、観光ボランティアとして来訪者にまちを案内しています。「今度、有難いことにご指名をいただいて案内するんです」。滲み出る嬉しさは、こちらまで笑顔にしてくれます。
有吉さんは筑豊育ち。勤め始めてから転勤で日本各地を転々とし、両親が福津に暮らしていたことから、9年前に越してきました。この頃、有吉さんは50代半ば。これからの人生のことをぼんやりと考え始めていました。歴史、鉄道、料理….好きなことの項目は並びますが、どれも平らなものに見え、立体的なものとしては映りませんでした。
59歳の時、退職して自由な時間を得ます。しかし、訪れたのはテレビを観るばかりの日々。体力の衰えを感じ始めたので近所を歩き始めました。すると、庚申塔(※1)や古墳等、今まで気付かなかったものが目に入るように。元来の歴史に対する興味が喚起され、「福津郷土史会」に入会。郷土史を学び始めると有吉さんは夢中になりました。「テレビを観るどころではなくなった!」。
鉄道好きでもある有吉さんは、20代の頃から「周遊切符」(現在の「青春18切符」)を使って旅をしています。行き先だけを決め、気になる駅があると下車するという自由な旅。ベンチに腰掛け、潮の流れを眺めたり、旧街道を歩いたり。観光地を訪れる旅行者としてではなく、生活者に近い視点でまちを見つめます。電車の中で、同じように旅する人に話しかけて情報交換をすることもあります。有吉さんが福津のことを話すと、宮地嶽神社を知っていても福津のことを知らない人がほとんど。「福津のことを知って欲しい」。こうした体験も有吉さんが郷土史を学び始めるきっかけとなりました。
郷土史を学び始めてからは、津屋崎に似た雰囲気のまちがあると降り立ち、図書館に行ってそのまちの郷土史の本を繰ります。「勘が当たる時も外れる時もある。それがまた面白い」。
次回の旅では、市政10周年記念のポロシャツ(※2)を着て有吉さんは出掛ける予定です。「話のきっかけになったらと思ってね。5枚買ったから替えも十分」。語れる郷土のことはたくさん。これから電車の中で出会う方にも、福津への来訪者にも有吉さんは伝えられる喜びを感じて話します。
好きなことと「知ってもらいたい」という気持ちが結実し、役割と喜びを感じて暮らす有吉さん。「退職後」を身近なものとして捉え難い30代の私にも、有吉さんの姿は共感と希望を与えてくれるように感じました。
※1中国より伝来した道教に由来する庚申信仰に基づいて建てられた石塔のこと。
※210年前、旧福間町と旧津屋崎町が合併して福津市が誕生した。
有吉敏高さん
「福津郷土史会」会員、「郷行カレッジ」の運営委員も務める。1日1万歩を目標に歩き、健康増進に励む団塊世代。息子さん家族と共に上西郷で暮らす。