自宅のデッキ越しに見える池の土手を指さし「あの土手でツクシがいっぱい採れるのよ」と橋内さん。野草を摘むのが春先の楽しみのひとつだと教えてくれました。

橋内さんの原風景は、熊本県の山奥にある母の古里。夏休みの間、毎日のように川で泳ぎ、食べはしないけれどドジョウをとって遊んだそうです。孫たちが熊本の家に着いてすぐ、祖母がふるまったのはお菓子ではなく、その土地で採れたタケノコやゼンマイの煮物。大人のお客さんに出すのと同じ田舎料理でもてなしてくれました。いつもの暮らしとは違う生活の始まりに、その土地のものをいただいて、お茶を飲んでほっとする。橋内さんにとってそれは、日常を離れる心の準備を含んだ大切な時間だったようです。

 

ツクシは「きんぴら」にしてもおいしいそう。

 

自宅近くの海や野山に出かけて旬のものを採るのは、福津で暮らす橋内さんにとって日常の一コマであり遊びのひとつ。中でもはまっているのは、春の海藻採り。「潮見表」で大潮の時間を調べ、その数時間前に友人と海辺に出て、テングサやワカメなどの海藻を拾うそうです。「海岸のヒジキって『え、これ?』っていうもの。びっくりする」と話す途中で「ヒジキを採る。これも旅にしたらいいね」とひらめいて、橋内さんの表情がぱっと輝きました。「こんな旅があったら、きっと楽しい」という、わくわくした気持ちから橋内さんの新しい「暮らしの旅」は生まれます。

 

テングサは「ところてん」に。塩ゆでしたワカメはおすそ分け。

 

「春夏秋冬と、夕日の落ちる場所が違うのよ。夕日の見えるところで育っていないから、面白いし、とても新鮮」。体験することでしか感じとれない自然の豊かさ。その恵みを楽しみながら暮らしにとり入れることのできる福津のまち。「自然の中で体験したことを、思いつめたときにふと思い出して悩みが薄くなることがある」。沈んだ気持ちをそっといたわってくれる自然。その大きな懐に身を置くことが、橋内さんの元気の源なのかもしれません。

橋内京子さん

根っからの旅好きで、和歌山まで「青春18きっぷ」で旅するパワフルな橋内さん。『福津暮らしの旅』の前身『自然塾』の立ち上げ当初から旅の企画に関わる一方で、「つやざきアンビシャス広場」の代表としても活躍中。


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