亜熱帯のような小さな森の先にある「みんなの木工房=テノ森」。かつてチョコレート工場だった建物が、無垢板で覆われた木工房へと姿を変え、まるで森の一部のように佇んでいます。
ここは、「つくるをつくる工房」。訪れる人が楽器や玩具、家具等の講習を受けたり、日曜大工の作業場として利用できます。工房を立ち上げたのは、細井護さん。彼は、20年前から故郷である北海道や世界を旅しながら彫刻家として活動しており、昨年、奥さんのさおりさんの故郷、福津に居を構え、工房を開くことにしました。
工房は、名前の通りみんなのもの。細井さんは「僕の」工房とは決して口にしません。「僕はここの用務員さん。世界を豊かにしていく愛の力があると思っていて、僕はその力を受けて、この工房で何かをさせてもらえたらと思っているのね」。工房は、細井さんの自己実現の場ではなく、大きな力を受けて、仲間と共に模索しながら色んなことを形にさせてもらう場であると細井さんは考えています。
これから工房でみんなと共に実現したいことがいくつもあります。その内、特に思いを込めていることが、想いを遺すものづくりの場としてあること。例えば、末期がんを患うお父さんやお母さんが、子どものために学習机をつくるといったことです。もの自体が大切なのではなく、ものをつくる過程にある誰かを想う気持ちが形として残っていくことを大切にできる工房であって欲しいと細井さんは願います。
これからもこの工房で生まれるたくさんの物語。その物語の側に居て、柔らかい眼差しを向ける細井さんと仲間たちの笑顔が、この工房を、そして世界を豊かにしていく歩みを進めていくのだと感じました。
細井護(ほそい まもる)
函館市出身。アラスカやネパール等に滞在しながら、彫刻家として自身の求めるあり方を多様な価値観の人と触れ合いながら形成していく。子育ての楽しさと喜びをあじわう一児の父親でもある。