太陽が今日を明るく照らす前、藤田裕美子さんは朝食の支度を始めます。福岡市内で勤める旦那さんと高校生の息子さんを送り出すためです。「朝食を作って、植木に水をやって、ゆっくりして、8時半から仕事」。早朝から濃厚な時が流れます。

トルコキキョウが玄関に。花が好きな藤田さんは、結婚当初から自宅に花を飾っている。

 藤田さんは、20年前に福岡市内から福津に越してきました。夫婦共に自然が好きで、福津をよく知るお父さんの勧めもあり決めました。暮らし始めると福津が大好きに。数年後、子どもを授かり子育てと家事に専念する生活へ。しかし、藤田さんは「それ以外の何か」を求めていました。ヘルパーの資格を取得したり、仕事を調べたりしましたがどうもしっくりきません。そんなある時、グラフィックデザイナーの旦那さんが思いもよらないことを口にしました。「何かしたいんやったら俺がグラフィックデザインを教えちゃろか」。青天の霹靂とは正にこのこと。藤田さんは驚くばかりでしたが「自分にできる何か」を求める気持ちが挑戦への道を開きました。

まるで一つの部屋のような緑がいっぱいのベランダ。

 学び始めたのは、息子さんが2歳の頃。育児の合間に学ぶことを2年間続け、友人から小さな仕事を受けるようになりました。ゼロから学んだことが仕事になっていくことに心を弾ませましたが、同時に不安も覚え始めます。「美術専門の大学を卒業したわけではないのにこれでいいのかな」。思い悩んだ時、旦那さんから言葉が届けられます。「大学を出ているかどうかなんて関係ない。誰にでもできる仕事ではないよ」。藤田さんの心は晴れ、足取り軽く仕事を進められるようになりました。

家族がお気に入りのベランダ。テーブルと鉢に植わったたくさんの植物が並ぶ。

 「お客さんの言葉の端々から好みや欲していることを感じ取って、それを形にしていくことが楽しくて仕方ない」。デザインしたものを遠くから眺めたり、何日か寝かせてから再考したり。デザイン畑ではないからこそ多様な視点を持ってデザインし、お客さんに喜んでもらえるように努めます。
 挑戦してみたことが仕事になり、楽しくて仕方ないことになる。理想的な道を進む藤田さんですが、仕事ばかりに夢中になることはありません。掃除や洗濯を気持ち良く行い、旬の食材を使った夕食を用意して家族の帰りを待ちます。「私は家族に支えてもらい暮らしている。仕事だけやっていても楽しくないと思うのよね。豊かな自然があるまちで暮らせ、ここに流れるゆったりした時を家族と一緒に過ごせることが幸せ」。

 家族も「わたし」も幸せな暮らし。それは好きなまち住み、家族が笑顔でいてくれることを最優先にできた時、訪れるもののように感じました。

藤田裕美子さん
デザイン会社「Dream Works」で働くグラフィックデザイナー。大好きな福津のことをより多くの方に知ってもらいたいと、福津市周辺のお店や情報を載せたフリーペーパー「fuku•fuku map」の編集長も務める。しばらく休刊していた「fuku•fuku map」が2015年2月にが再スタート予定。


暮らしびと 記事一覧

かつては黄色い絨毯(じゅうたん)を敷きつめたように菜の花が咲き広がっていた勝浦平 […]
毎年、三反(たん)の広々としたヒマワリ畑が、夏を迎えた新原・奴山古墳群*に彩りを […]
自宅のデッキ越しに見える池の土手を指さし「あの土手でツクシがいっぱい採れるのよ」 […]
土間にあった下駄に履きかえ「これだとね、出たり入ったりが楽ちんなんです」と嬉しそ […]
日当たりのよい、庭先のプランターで摘みとった、春菊のやわらかい若葉を手に「さっと […]
 「今日は夕陽がきれいそうやね」。眼下にまちと海が広がる高台に暮らす中島美香さん […]
 「手から糠漬けの匂いが落ちない時がありまして」。自宅の庭で野菜を作り、収穫した […]
「先月、リフォームしたんですよ。リビングと台所、洗面所とお風呂も」。ずずずと通さ […]
「眺めがよかろう」。水上牧場の牧場主水上治彦さんは、山を開いて作った放牧場から […]
「新しいことを学ぶと人に伝えたくなるねぇ」。有吉敏高さんは、郷土史会の会員であり […]
 角信喜さんは高校生の時、自宅の本棚にあった『神々の指紋』(※1)やギリシャ神話 […]
 太陽が今日を明るく照らす前、藤田裕美子さんは朝食の支度を始めます。福岡市内で勤 […]
 カランコロン。下駄の音がまちの中に響く。柴田奈緒美さんは下駄を履き、自身で染め […]
 季節の花々が咲き、ほのかにハーブの香りがする庭。スカートをひらひらさせて踊りた […]
 「This is the house」(ここが僕たちの家だ!) 探し続けていた […]
 亜熱帯のような小さな森の先にある「みんなの木工房=テノ森」。かつてチョコレート […]
 福津市の東側、許斐(このみ)山麓にある集落、「八並(やつなみ)」。柴田稔さんと […]
 福津市の北側にある「山添」(やまぞえ)という集落に、西浦さん夫妻は暮らしていま […]
 世界が目覚め、空気が澄み切った朝。山から朝日が昇り、宮地嶽神社の社殿が照らされ […]
 「何しとっちゃろうか」。電気関係の会社に勤めて2年経った20歳の時、間利夫さん […]
※1 津屋崎人形 歴史やおとぎ話で活躍する人物等を題材にした土人形。原色で絵付け […]
 海岸から東側に車を15分程走らせると、風景が一変し、目に緑がたくさん映り始めま […]
福津市の東側に「光陽台」という住宅街があります。その中の一軒で野田壮平さんは生ま […]
豊村酒造5代目豊村源治さんの妻、理惠子さんは自問します。「何の為に古い建物を維持 […]
  コッコッコ。6歳の少年、中村海渡君が自宅にある鶏小屋の中に入り、言 […]
  福津では朝日が山から昇り、夕陽が海に沈む。お日様が顔を出す在自山( […]
「父は、朝食の準備と二人分の弁当を作って、6時半に出勤してたんです。辛い顔なんて […]
  「茶色い毛の馬は、まつ毛も茶色なんです。私は馬のことに関して素人だ […]
「ずっとお店に来たいと思っていたんです。この辺りのゆっくりした時間の流れが好きで […]
「「どこ行きようと?」と声をかけることが、「こんにちは」と挨拶することと同じだと […]