「先月、リフォームしたんですよ。リビングと台所、洗面所とお風呂も」。ずずずと通された浴室の窓の向こう側には、薪がたくさん積んでありました。
寺嶋秀樹さんは、福津市の北側、須多田(すだた)で米、麦、大豆を栽培する専業農家。おじいさんの代から農業を営んでおり、寺嶋さんは、高校卒業後、お父さんに学びながら農業を始めました。
おじいさんもお父さんも熱心な研究家。その努力は、上質な実りをもたらし、知事賞(※1)を受賞する程でした。二人の真面目な働きがあったからこそ、地域の方にも信頼されて農業ができている。寺嶋さんは二人を誇りに思い、恥じることのない農業をと胸に刻んでいます。
田んぼから帰宅すると、寺嶋さんは、台所奥にある土間に向かいます。お風呂に入るためにボイラーに薪をくべるのです。「うちは、5時過ぎないとお湯が出ないんです」。お湯を湧かす熱源はガスや電気が主流ですが、寺嶋さん宅は薪。といっても「湯加減いかが?」と湯を沸かしながら入浴するわけではなく、一度沸かすとタンクの中に湯を貯められるようになっています。「リフォームしても、まだ薪?」と首を傾げていると「山にいけば木がありますからね」と。寺嶋さんは山を持っており、間伐したものを薪にして湯を沸かすという合理的な理由がそこにありました。
「この柱や梁も山の木です」。寺嶋さんの自宅は山から切り出した木を使って建てられました。しかも、集落の方と大工さんによるものだというのです。「子や孫のために木を植えてね、それぞれの家を建て合っていたんです。「結」(ゆい)って言ってね。だから、家を建てるなら100年保つ家を建てていました」。山で木を、田畑で作物を育てて人の暮らしも自ずと成り立っていく。寺嶋さんの暮らしは、人が自然の一部として生きていく、生かされていくためのあるべき姿のように映ります。
一昨年、息子さんに代替りし、肩の荷を下ろした寺嶋さん。しかし、今まで培ってきたことを息子さんに教えたり、お孫さんの守をしたりと忙しさに変わりはありません。暖かくなったら、畑に小屋を作る計画も立てているそうです。材料はもちろん山から切り出したものを使って。
※1 優れた農作物を栽培したことを賞したもの。
寺嶋秀樹さん
農業一筋の団塊の世代。「いい女房をもらいました」と照れなく話す愛妻家。木工が好きで、生まれ変わったら家具職人になりたいそう。