毎年、三反(たん)の広々としたヒマワリ畑が、夏を迎えた新原・奴山古墳群*に彩りをそえます。夏の青空と古墳群を背にした、大輪の黄色い花々に、思わず足を止めカメラを向ける人々。昨年の夏は、多くの見物客が訪れたそうで「世界遺産の見えるヒマワリ畑」として人気の写真スポットにもなっています。
*2017年に世界遺産に登録された「宗像・沖ノ島と関連遺産群」のひとつ。

 

高台にあるヒマワリ畑からは、新原・奴山古墳群が見わたせる。

 

小澤さんご夫婦が、ヒマワリ畑を始めたのは7~8年前のこと。野菜の作れない夏場に、緑肥になるヒマワリを植えようと思ったのがきっかけでした。花が咲きほこるころには、道行く人たちが「きれいですね」「わたしも写真を撮りました」とお二人に声をかけてくれるそうです。
「去年もね、咲いたときみんなが喜ぶのを見て『お父さん、やったあ!これがあるけん、続けられるとやね』って言うたんよね」。淳子さんの言葉に、和幸さんがうなずきながら「ぜひきれいに咲かせたいばってんが……こればっかりはね」。すると和幸さんの言わんとすることを汲んで「人間はちょっとやね、あとは“自然”」と淳子さんが言葉をつなぎます。

 

代(しろ)かきをして水をはった水田と古墳群。「ここから見える夕日がきれいったい」と撮影した和幸さん。

 

訪れる人の思い出に残る、ヒマワリ畑の風景。その美しい眺めを維持するには苦労が絶えません。生育を天候に左右されるのはもちろん、雑草はヒマワリよりも先に土の栄養を吸って育つので、肝心のヒマワリが背の高い雑草の日影になって思うように育たないことも。そんなときは鎌をにぎり、三反の畑中に生えた雑草を一週間かけて刈りとります。
その過酷ともいえる作業の間「『咲いたらみんなが喜びんしゃあけん』、そればっかりを自分の中でくり返すと」と淳子さん。雑草を刈り終えると、小澤さんご夫婦の苦労をねぎらうようにして、日が当たるようになったヒマワリがぐんぐん背を伸ばすのだそうです。

 

自宅の畑でとれたトウモロコシ。もぎたてを生のまま食べると、実はパチパチ、味は桃のよう。

 

「きついこともあるけど、人の喜ぶ顔を楽しみに思って」。
手をかけ汗をかいて育てた、ヒマワリ畑を目にした人々の驚く声、喜ぶ顔。それを見て、和幸さんと淳子さんもまた喜びを感じると言います。一方で、ヒマワリ畑を続けていくことは、自ずとこの地域を守ることにもつながっているのです。
「利益は生み出しきらんけど、それに代わる喜びが返ってくるかなと思ってしよる」。
苦労の先にある喜びを思い描いて、前向きな言葉を口にする淳子さんは、常にお日様のほうを向いているヒマワリの花のようでした。

小澤和幸さん・淳子さん

兼業農家の小澤さんご夫婦。田畑で仕事をしながら出会った、美しい風景を写真に切りとる和幸さんの趣味は“ゴルフ”。実家が農家という淳子さんは、育てた野菜や果物を「無駄にせんように」と保存食レピシをたくさんメモに書き留めている。


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