「茶色い毛の馬は、まつ毛も茶色なんです。私は馬のことに関して素人だから、こうやって一つ一つわかっていくことが楽しい」。増田美佐子さんは、馬と顔を見合わせながら言葉にしていました。

福津市の北部に位置する生家(ゆくえ)という集落に「むなかた乗馬クラブ」があります。増田さんは6年前から馬小屋の掃除を手伝うことから始め、現在は職員として働いています。仕事は早朝6時から。エサやり、馬小屋の掃除、シャンプー等を強い日差しが照り付ける中、黙々と進めます。「重たいものを運んだり、馬フンの処理をしたりすることを辛いと思ったことは一度もないです」。この言葉の通り、増田さんの働き振りは、清々しく、見ている方をも気持ち良くさせます。

パッカパッカパッカ。馬車を引く馬は「むなかた乗馬クラブ」のオーロ。福津市内を馬車で巡ります。(※)オーロは、穏やかで優しい性格なので、車道を走ってもパニックを起こすことがありません。この馬車に乗り、お客さんにまちの案内や馬のことを説明するのが増田さんの役割の一つ。子どもも大人も気持ちを高ぶらせて馬車に乗り込みますが、しばらくすると落ち着き、4歳以下の子どもは眠ってしまうことも多いとのこと。馬車の揺れに体を委ねることで気持ちが安らぎ、また、パッカパッカという音は、胎内で聞く母親の心音に近いことから小さい子どもは眠ってしまうそうです。

「行き交う人にニコニコしながら手を振ってもらい、笑顔を交わせる。こんなに幸せな仕事はないと思う」。幸せを感じる人が案内する馬車に乗り、オーロが足を運ぶ音を聞きながらまちを巡る。言葉にするだけで心が緩み、眠くなってしまいそうです。

(※)馬車は予約制で、いつでも運行できます。(定休日の月曜日以外)

増田美佐子 (ますだ みさこ)
15年前に福岡市内から移り住む。2人のお子さんの子育てがひと段落したこともあり、乗馬クラブでの仕事に邁進する日々を送っている。


暮らしびと 記事一覧

かつては黄色い絨毯(じゅうたん)を敷きつめたように菜の花が咲き広がっていた勝浦平 […]
毎年、三反(たん)の広々としたヒマワリ畑が、夏を迎えた新原・奴山古墳群*に彩りを […]
自宅のデッキ越しに見える池の土手を指さし「あの土手でツクシがいっぱい採れるのよ」 […]
土間にあった下駄に履きかえ「これだとね、出たり入ったりが楽ちんなんです」と嬉しそ […]
日当たりのよい、庭先のプランターで摘みとった、春菊のやわらかい若葉を手に「さっと […]
 「今日は夕陽がきれいそうやね」。眼下にまちと海が広がる高台に暮らす中島美香さん […]
 「手から糠漬けの匂いが落ちない時がありまして」。自宅の庭で野菜を作り、収穫した […]
「先月、リフォームしたんですよ。リビングと台所、洗面所とお風呂も」。ずずずと通さ […]
「眺めがよかろう」。水上牧場の牧場主水上治彦さんは、山を開いて作った放牧場から […]
「新しいことを学ぶと人に伝えたくなるねぇ」。有吉敏高さんは、郷土史会の会員であり […]
 角信喜さんは高校生の時、自宅の本棚にあった『神々の指紋』(※1)やギリシャ神話 […]
 太陽が今日を明るく照らす前、藤田裕美子さんは朝食の支度を始めます。福岡市内で勤 […]
 カランコロン。下駄の音がまちの中に響く。柴田奈緒美さんは下駄を履き、自身で染め […]
 季節の花々が咲き、ほのかにハーブの香りがする庭。スカートをひらひらさせて踊りた […]
 「This is the house」(ここが僕たちの家だ!) 探し続けていた […]
 亜熱帯のような小さな森の先にある「みんなの木工房=テノ森」。かつてチョコレート […]
 福津市の東側、許斐(このみ)山麓にある集落、「八並(やつなみ)」。柴田稔さんと […]
 福津市の北側にある「山添」(やまぞえ)という集落に、西浦さん夫妻は暮らしていま […]
 世界が目覚め、空気が澄み切った朝。山から朝日が昇り、宮地嶽神社の社殿が照らされ […]
 「何しとっちゃろうか」。電気関係の会社に勤めて2年経った20歳の時、間利夫さん […]
※1 津屋崎人形 歴史やおとぎ話で活躍する人物等を題材にした土人形。原色で絵付け […]
 海岸から東側に車を15分程走らせると、風景が一変し、目に緑がたくさん映り始めま […]
福津市の東側に「光陽台」という住宅街があります。その中の一軒で野田壮平さんは生ま […]
豊村酒造5代目豊村源治さんの妻、理惠子さんは自問します。「何の為に古い建物を維持 […]
  コッコッコ。6歳の少年、中村海渡君が自宅にある鶏小屋の中に入り、言 […]
  福津では朝日が山から昇り、夕陽が海に沈む。お日様が顔を出す在自山( […]
「父は、朝食の準備と二人分の弁当を作って、6時半に出勤してたんです。辛い顔なんて […]
  「茶色い毛の馬は、まつ毛も茶色なんです。私は馬のことに関して素人だ […]
「ずっとお店に来たいと思っていたんです。この辺りのゆっくりした時間の流れが好きで […]
「「どこ行きようと?」と声をかけることが、「こんにちは」と挨拶することと同じだと […]