世界が目覚め、空気が澄み切った朝。山から朝日が昇り、宮地嶽神社の社殿が照らされる。神職、吉良義男さんは、社殿を開錠しながら自然と社殿の融合がもたらす美しさに息を呑み、その風景を心に焼き付けています。
吉良さんは、札幌育ち。お父さんも神職だったので、自宅は神社の境内の中にありました。「義男、お供えせんか」。子どもの頃の目覚まし時計は、お父さんの声。自宅の周囲にあった三社にお供えを上げたり、神棚の水を換えたりすることから1日が始まりました。吉良さんにとって神道は、特別なものではなく、暮らしの一部として溶け込んでいるものでした。神職に就いてからもその考えは変わらず、人が生きていく道であり、当り前のことを当たり前に行うこととして神道を捉えています。
「ロボットになって、200年後の神社を見てみたい」。吉良さんの願望の1つ。宮地嶽神社は創建から約1700年。この時の長さを考えると200年は短く思えますが、200年前と現在では参拝者の様子は随分異なります。江戸時代には、参拝者が自動車で訪れ、サンダルと短パン姿でお参りすることは想像しえなかったでしょう。「飛行機で参拝に来るのじゃないか。神職は居るのだろうか」。吉良さんの好奇心は未来に向けられ、想像が膨らんでいきます。
時代の変化と共に宗教の捉え方や常識は変化していきますが、ロボットとなった吉良さんが、「当り前のこと」は守り続けている日本を見ていて欲しいと強く思いました。
吉良義男(きら よしお)
札幌出身。宮地嶽神社、権禰宜。神職の免許取得後、縁あって26年前に宮地嶽神社に奉職。職場はわきあいあいとした雰囲気で、笑い声が聞こえ、にこやかな表情がこぼれている。