日当たりのよい、庭先のプランターで摘みとった、春菊のやわらかい若葉を手に「さっと火を通して、白和えにすると最高ね」と朗らかな笑顔を見せる三浦さん。

デッキでは、畑で掘ったばかりのサツマイモと、三浦さん自ら収穫した柿を干し柿にして天日に干していました。干し柿を作るときに出た、皮は捨てずに、ザルの中でからからに乾燥させて白菜漬けに使います。「部分部分でいろんな食べ方があって、捨てるところがないよね」と話す、三浦さんの表情には食べ物への尊敬の念がにじんでいました。

 

柿の皮は天日に干して漬物に。

 

旬のものがまとめて手に入れば、自宅のダイニングを『三浦食品加工所』と称して、ジャムや漬物などの保存食を作っておすそわけ。定期的に行っている、アンビシャス広場での料理教室の話になると「自分をけしかけることができる」とはつらつとした笑顔に。図書館通いをして学び、時には「奥が深い」と挫折しそうになる日もあるけれど、その状況さえも楽しんでいる様子です。

 

三浦さんお手製の「梅干し」はふっくら。

 

給食調理員として働きながら、三人の子どもを育てた三浦さん。せわしない毎日を送りながらも「自分や家族が崩れんための食べ物を食べること、それを大切にしてきたよね」と当時をふり返ります。
親子ともども思い悩んだ時期もあったけれど、そんな中でも「学食よりも、お母さんのお弁当がいい」と子どもたちは母の味を求めたそうです。
近ごろは、母となった娘さんが「子どもが『誕生日に〝だぶ″が食べたい』って。お母さん、どう作るの?」と三浦さんから郷土料理を習います。じつは「誕生日のだぶ」は、娘さん自身が幼いころ、自分の誕生日にリクエストしていたもの。特別な日に、忙しい母が手間暇かけて作ってくれた、愛情と思い出のつまった手料理なのです。

日々心がけてきたことは、食を通して家族を思いやること。それは、三浦さんが〝料理の師匠″とよぶ、ご自身の母親から受け継いだものなのかもしれません。「手間暇かけたものを食べる習慣のおかげで、心と体が持ちこたえたことが何度もあった」。食をおろそかにしない、その思いは時が経ってもぶれることはありません。

三浦美奈子さん

福津市在住。36年間、給食調理員として働く。退職後は『福津 暮らしの旅』をはじめ、高齢者施設やアンビシャス広場などで食にまつわる経験を生かして活躍中。


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