カランコロン。下駄の音がまちの中に響く。柴田奈緒美さんは下駄を履き、自身で染めた藍染めの服を纏ってまちを行き来します。時に藍色に染まった布を運んだり、立ち話に花を咲かせながら。

「藍の家」の庭に植えている藍。種の自家採取も行っている。

 奈緒美さんが嫁いできたのは22年前のこと。福岡市内の住宅地で生まれ育った奈緒美さんにとって津屋崎は別世界でした。義父の柴田治さん(※1)が街並み保存の活動を精力的に行い始めた時だったのでなおのこと。まちの祭事や習わしを初めて体験し、喜び驚きながら新しい家族との暮らしを送っていました。
 生活に慣れ始めた頃、二人の男の子も授かりました。次男が小学校に上がった時、草木染めを友人たちと始め「津屋崎 藍いろの会」と命名。元紺屋の上妻邸「藍の家」(※2)で藍染め体験ができるようにと始めました。同世代の子どもを持つ母親同士で始めた会だったので、子ども達と一緒にできるということも大きな理由でした。周囲の方の協力を得て藍を育て、叩き染め(※3)を行ったり、勉強会を開いたり、講座を受講したり。知れば知るほど藍染めの奥深さを知り、奈緒美さんは挑戦と失敗を繰り返しながら技術を高めていきました。

柴田奈緒美さん作の藍染め。タイトルは「むるぶし」

 現在、奈緒美さんは仕事として藍染めを行っており、10年前に染めを始めた時から変わらず藍の家での体験会も続けています。「津屋崎千軒にある藍の家で、古いものに囲まれて染める」。奈緒美さんにとって藍染め体験は、染める作業だけではなく、まちや家の空気や歴史を感じることと共にあります。
 津屋崎というまちに嫁ぎ、導かれるように藍を染める奈緒美さん。「織物もしたいやろ、紅型も着物も作りたいと」。これから行いたいことを数えて心を踊らせます。
 好きなこと、まちに必要なことを形にするとまちが彩り、仕事も生み出される。人とまちと仕事。この3つが重なることで人はよりまちを想い、郷土愛を育んでいけるのかもしれないと思いました。

オーストラリアから来た高校生と藍染め体験

※1 壊れて行く街並みや自然を子や孫に残していくために、保全や保存活動を精力的に取り組んだ画家。
※2 柴田治さんをはじめ地元の方の献身的な活動により保存され、まちづくりの拠点となっている場所。
※3 藍の生葉を叩くことで、繊維を布に染み込ませて染める方法。

柴田 奈緒美さん
藍を身近なものとして感じてもらうために藍染め体験会を開き、手拭いや風呂敷も販売する。12月9日〜14日に藍の家で「つつむあい」展を行う予定。


暮らしびと 記事一覧

かつては黄色い絨毯(じゅうたん)を敷きつめたように菜の花が咲き広がっていた勝浦平 […]
毎年、三反(たん)の広々としたヒマワリ畑が、夏を迎えた新原・奴山古墳群*に彩りを […]
自宅のデッキ越しに見える池の土手を指さし「あの土手でツクシがいっぱい採れるのよ」 […]
土間にあった下駄に履きかえ「これだとね、出たり入ったりが楽ちんなんです」と嬉しそ […]
日当たりのよい、庭先のプランターで摘みとった、春菊のやわらかい若葉を手に「さっと […]
 「今日は夕陽がきれいそうやね」。眼下にまちと海が広がる高台に暮らす中島美香さん […]
 「手から糠漬けの匂いが落ちない時がありまして」。自宅の庭で野菜を作り、収穫した […]
「先月、リフォームしたんですよ。リビングと台所、洗面所とお風呂も」。ずずずと通さ […]
「眺めがよかろう」。水上牧場の牧場主水上治彦さんは、山を開いて作った放牧場から […]
「新しいことを学ぶと人に伝えたくなるねぇ」。有吉敏高さんは、郷土史会の会員であり […]
 角信喜さんは高校生の時、自宅の本棚にあった『神々の指紋』(※1)やギリシャ神話 […]
 太陽が今日を明るく照らす前、藤田裕美子さんは朝食の支度を始めます。福岡市内で勤 […]
 カランコロン。下駄の音がまちの中に響く。柴田奈緒美さんは下駄を履き、自身で染め […]
 季節の花々が咲き、ほのかにハーブの香りがする庭。スカートをひらひらさせて踊りた […]
 「This is the house」(ここが僕たちの家だ!) 探し続けていた […]
 亜熱帯のような小さな森の先にある「みんなの木工房=テノ森」。かつてチョコレート […]
 福津市の東側、許斐(このみ)山麓にある集落、「八並(やつなみ)」。柴田稔さんと […]
 福津市の北側にある「山添」(やまぞえ)という集落に、西浦さん夫妻は暮らしていま […]
 世界が目覚め、空気が澄み切った朝。山から朝日が昇り、宮地嶽神社の社殿が照らされ […]
 「何しとっちゃろうか」。電気関係の会社に勤めて2年経った20歳の時、間利夫さん […]
※1 津屋崎人形 歴史やおとぎ話で活躍する人物等を題材にした土人形。原色で絵付け […]
 海岸から東側に車を15分程走らせると、風景が一変し、目に緑がたくさん映り始めま […]
福津市の東側に「光陽台」という住宅街があります。その中の一軒で野田壮平さんは生ま […]
豊村酒造5代目豊村源治さんの妻、理惠子さんは自問します。「何の為に古い建物を維持 […]
  コッコッコ。6歳の少年、中村海渡君が自宅にある鶏小屋の中に入り、言 […]
  福津では朝日が山から昇り、夕陽が海に沈む。お日様が顔を出す在自山( […]
「父は、朝食の準備と二人分の弁当を作って、6時半に出勤してたんです。辛い顔なんて […]
  「茶色い毛の馬は、まつ毛も茶色なんです。私は馬のことに関して素人だ […]
「ずっとお店に来たいと思っていたんです。この辺りのゆっくりした時間の流れが好きで […]
「「どこ行きようと?」と声をかけることが、「こんにちは」と挨拶することと同じだと […]